WordPress騒動の衝撃:Automattic対WP Engine訴訟が投げかける未来への警鐘
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全世界のウェブサイトの大きなシェアを占めるコンテンツ管理システム(CMS)、WordPress。
その手軽さと豊富な機能から、個人ブログから大規模な企業サイトまで幅広く利用されてきました。
しかし、2024年、WordPressの屋台骨を揺るがしかねない重大な事態が発生しました。WordPressの運営母体であるAutomattic社およびその代表マット・マレンウェッグ氏と、大手WordPressホスティングサービス企業であるWP Engine社との間で勃発した問題です。
この騒動は、WordPressの未来に暗い影を落とし、私たちがWordPressとどう向き合っていくべきか、大きな問いを投げかけています。
本記事では、この「2024年WordPress騒動」の結末と、それがWordPressの今後にどのような影響を与えるのか、特にセキュリティの観点から深く掘り下げて解説します。
Contents
忙しい人向け:利用シーン別・今後もWPを使用していいの?
利用シーン | 新設サイト | 既存サイト |
個人ブログ・ポートレートサイト | WPを使うのも選択肢だが、ブログならnote、ポートレートならペライチなど他の有効な選択肢も多い。 | わざわざ他のCMSやサービスに移行する必要はないが、セキュリティ対策は講じておこう。 |
コーポレートサイト | 他のCMSやサイト構築サービスを検討すべき。 そもそもブログ機能を持たないのならCMSが本当に必要かどうかしっかりと社内検証することをおすすめする。 また、クラウド環境を運用しているのなららヘッドレスCMSが有効な選択肢となる。 | サイトが侵害されるリスク・それによって生じる社会的信用の失墜リスクこれらと移行に必要なコストを天秤にかけましょう。 ほとんどアクセスがないようなBtoBビジネスの場合は多くのケースで問題はない。 それなりにアクセスが有る場合は、以下の最悪のケースもリスクとして知っておくべき。 サイトが改ざんされ悪意のあるプログラムの配布に加担させられ、顧客や取引先を加害するリスクがある。 |
ECサイトや会員制情報サイトなど | WordPressを使うという選択肢はすぐさま頭から消してください。 機密データを扱う場合になによりも優先させるべきは堅牢なセキュリティです。 | これまでにセキュリティ侵害がなかったか、すぐにログを確認してください。 移行作業にすぐに取り掛かってください。 まずはデータベースだけでも堅牢なクラウドに移行し、データ取得についても高度な認証を導入してください。 |
騒動の核心:Automattic社とWP Engine社の法廷闘争とその余波
今回の騒動の中心となったのは、WordPressエコシステムにおいて極めて重要な役割を担う2社、Automattic社とWP Engine社の間での法的な争いです。具体的な訴訟内容の詳細は複雑であり、ここでは深入りしませんが、この対立がWordPressというプラットフォームの根幹に関わる重大な問題を含んでいることは間違いありません。
この訴訟問題の直接的な影響として懸念されるのは、WordPress本体の開発・メンテナンス体制の弱体化です。
Automattic社はWordPressのコア開発において中心的な役割を果たしていますが、訴訟対応に多大なリソース(時間、費用、人材)を割かざるを得なくなる可能性があります。その結果、WordPressのバージョンアップ作業や、新たに見つかる脆弱性への対応が遅れるのではないかという懸念が現実味を帯びてきているのです。
実際にAutomatic者は会社ブログでWordPressコアへの開発リソース提供を減らすことを発表しています。(https://automattic.com/2025/01/09/aligning-automattics-sponsored-contributions-to-wordpress/)
WordPressへの致命的な影響:加速する脆弱性リスク
WordPressは、その人気の高さゆえに、以前からサイバー攻撃の標的とされやすく、プラグインやテーマに起因する脆弱性が頻繁に指摘されてきました。セキュリティ対策はWordPressを利用する上での永遠の課題とも言えます。
今回の騒動は、この状況をさらに悪化させる可能性があります。Automattic社の開発リソースが分散され、WordPress本体のセキュリティアップデートが滞れば、新たな脆弱性が発見されても修正されるまでに時間がかかり、その間、ウェブサイトは無防備な状態に晒されることになります。ただでさえ脆弱性リスクが高いと認識されていたWordPressが、今回の件でそのリスクをさらに増幅させてしまったと言わざるを得ません。
WordPressは今後どうなる?利用シーンごとのリスク判断
では、私たちは今後WordPressとどう付き合っていけば良いのでしょうか。結論から言えば、WordPressが直ちに使えなくなるというわけではありません。しかし、その利用にはこれまで以上の慎重な判断と、より高度なリスク意識が求められます。
個人ブログやポートフォリオサイト:限定的な利用は可能か
個人情報や企業の機密データといった秘匿性の高い情報を扱わない、個人のブログや作品を展示するポートフォリオサイトであれば、引き続きWordPressを利用する選択肢は残されています。しかし、その場合でも、セキュリティ対策の徹底はこれまで以上に重要です。アップデートの即時適用、信頼性の低いプラグインやテーマの排除、二段階認証の設定など、自衛策を講じることは必須となるでしょう。
コーポレートサイト:信用失墜のリスクを直視すべき
企業の顔となるコーポレートサイトにおいては、話は大きく異なります。たとえサイト自体に機密情報が含まれていなくても、ウェブサイトが改ざんされたり、マルウェアの配布元となったり、あるいはサービスが停止したりする事態は、企業の信用を著しく失墜させる可能性があります。今回の騒動で高まる脆弱性リスクを考慮すると、新規にコーポレートサイトを構築する際に、あえてWordPressを選択することは、あまりにもリスクが高いと言わざるを得ません。
ECサイト:WordPress利用は禁忌に近い選択
顧客の個人情報、クレジットカード情報といった極めてセンシティブなデータを取り扱うECサイトにおいて、セキュリティリスクの増大は致命的です。WordPressおよびそのエコシステム(特にWooCommerceなどのプラグイン)をベースにしたECサイト構築は、今回の騒動以前からセキュリティ面の懸念が指摘されていましたが、現状では極めて危険な選択と言わざるを得ません。 万が一、情報漏洩事故が発生した場合の損害は計り知れず、事業継続すら危ぶまれる事態になりかねません。
結論:WordPressとの付き合い方を見直す岐路
2024年に起きたAutomattic社とWP Engine社の訴訟問題は、WordPressの将来に大きな不確実性をもたらしました。特に、セキュリティアップデートの遅延という形で、ユーザーが直接的な不利益を被る可能性が高まっている点は看過できません。
既にWordPressで構築・運営しているウェブサイトをお持ちの場合は、今回のリスク増大と、サイト移行に伴うコストや手間、そして移行先プラットフォームの安全性を天秤にかけ、慎重に今後の対応を検討する必要があります。セキュリティ専門家の意見を仰ぐことも有効でしょう。
そして、新たにウェブサイトを立ち上げる場合、特にビジネス用途においては、WordPressを第一候補として安易に選択する時代は終わりを告げたと認識すべきです。 より堅牢なセキュリティ体制を持つ他のCMSや、静的サイトジェネレーター、あるいはヘッドレスCMSといった新しい技術トレンドも視野に入れ、ウェブサイトの目的と重要性、そして許容できるリスクレベルを総合的に勘案し、最適なプラットフォームを選定することが、これまで以上に求められています。
WordPressが長年にわたり培ってきたエコシステムや利便性が一朝一夕に失われるわけではありません。しかし、今回の騒動は、私たちユーザーがWordPressというプラットフォームに対して抱いていた信頼を揺るがし、その利用のあり方について根本的な見直しを迫る、重大な転換点と言えるでしょう。
また弊社サイトも執筆時点ではWPサイトですが、ヘッドレスCMSを使用したクラウド環境への移行作業が進んでいます。
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